2020年2月4日
イヴォーク,bish

 

しばらく目を開けて天井の暗闇を見つめていた。

まだ夜が明けきらぬ寅がゆっくりと全身を現した刻、物音を立てぬようゆっくりと片足をベットから下ろす。

子供と妻のわずかな寝息だけが聞こえる。

静寂のこだまに息を潜め、さらにもう片方の足を床に着け、するりとベットを抜け出した。
振り返り窓の外に目をやると、この時期にしては珍しい随分と大きな下弦の月がこちらの様子を伺っていた。

外の闇に目を奪われた。

なぜ部屋のカーテンが開いているのか気にはなったが、閉じる事なく反対方向に踵を返した。

部屋から出た僕はそのまま扉をそっと閉め、階段を降りるとすぐにキッチンの椅子に掛けてあった厚手の靴下を履き、電気ケルトに一杯分のお湯を沸かした。

電気ケルトのない生活は考えられないな・・

戸棚から素早くスタバで買った安物のカップを取り出し、キャラメルブラウニーのティーバックを入れ、上がったばかりの熱湯を注いだ。

年末に友人がロンドンのTWININGS本店で買ってきてくれた茶葉だが、このフレイバーに思いの他ハマってしまい、またお願いしようかと思っている。

冷蔵庫から取り出した2つのクリープと2個の角砂糖を、甘い香りがし始めたカップに放り込み、スプーンで軽くかき混ぜながら自嘲していた。

ーキャラメル・チョコレート・ココアまで入った贅沢な紅茶も、安物のミルクティーにされてはたまらないなー

一口だけ飲もうとしたがあまりの熱さに、軽く甘い香りをすする程度にしてフタを閉めた。

カップを片手にキッチンの電気を消し、暗がりの中、玄関まで音を立てぬようそろりそろりと歩いていった。

玄関の灯りを点けようか迷ったが、この場所のスイッチはオンとオフを押す度に「カチッ、カチッ」と音がするので忍び向きではない。暗がりに慣れてきた目は、わずかに家の外から差し込む街灯の明かりだけで動く事ができた。

玄関の脇にあるスチール製のオブジェの横にカップを置き、その横にある戸棚を開けた。

カシミアのマフラーを手に取ると、無造作に首にグルグル巻き、NICOLのピーコートを羽織り、免許証・財布・車の鍵をポケットに突っ込み、カップを左手に取り、先日買った黒いオニツカタイガーの細身のシューズを履くと、玄関の扉をゆっくりと押し開けた。

玄関を出て夜空を見上げた。

街灯の明かるさでハッキリとは見えないが、新月が近い星空は山で眺めればきっと綺麗なのだろう。

それにしてもわずかな吐息が出るものの、2月の初旬にしては不自然なほどに寒くない朝だ。

地球規模による異常気象の一端なのか、単に今年が暖冬なのかは分からないが、冬だから寒くなければいけないという事はない。

むしろ暖冬は過ごしやすく結構な事だ。

季節だのみで商売をしている人にとっては困るのかもしれないが、結局人は自らの経済的損失に影響がなければ大抵の事はどうでもいいものなのだ。

「地球環境がどうだとか、母なる地球が・・」とか言ってればインテリに思われるのかもしれないが、実は温暖化や寒冷化なんてものは人が居ようがいまいが起きる事だし、大局的には人間にその進行を止める事は不可能なのだ。

今や環境問題はビジネスであり、ローカルな法律しか持たない人類が、どうやってグローバルな問題を対処できるというのだろうか。
これは金融の世界にも言える事だが、個人や企業の「欲」を押さえ込むグローバルな法律を作らない限り人類は絶対に何一つこれから先に起こる問題を解決できないだろう。

それには現在の全く意味のなさない、全く機能できていない「国連」なんてものは潰すべきだ。
「世界政府」を組織しない限り人類は次のステージに上がる事は不可能だろう。

まぁ、そんな事はフランスの「智の巨人」jacques attali(ジャック・アタリ)にでも任せておけばいい。

「あるがまま」を信条にしている僕にとってみれば、100年後に人類が絶滅しようが、明日人類が絶滅しよが正直どうでもいい事だ。

玄関から庭に伸びる敷石の上を歩きながら、そんな事をぼんやりと考えていた。

車まで来た僕がドアノブに手を掛けると、その瞬間にわずかな解錠音とハザードが点滅してドアが開く。

あえてアンサーバックの音を出さない紳士な車は忍び向けだ。この上品さを理解するまで、僕にはそれなりの時間が必要だった事を今思い出した。

ちなみにEVOQUEがイギリスの車だから「紳士な車」と表現した訳ではない。イギリス(United Kingdom)なんて国は歴史を少し調べれば、支配階級の出自も海賊、いや国自体が海賊国家で紳士とは程遠い。

「ガチャッ」

イヴォークの少し重たいドアの音。

・・・

!?

何だ!

ドアを開けた正にその瞬間だった

その瞬間ふと誰かの視線を感じた。そして生暖かい息づかいのような・・

一瞬背筋が凍る感覚

誰かがこちらを見ている・・

瞬間的に左右に首を振り両目は暗闇の隅々まで捉える。上か?

首をゆっくり持ち上げ、自宅の二階を振り返り見上げた。

暗闇の中、視線だけを流し・・・
それでもある一ヶ所が気になり目を細める。

先程まで僕が寝ていた寝室。妻、子供達が今も寝ているであろう寝室。

やはり・・、何故カーテンが開けられていたのだろうか?

先程の刺すような視線は一体・・

妻が物音に気づき、こちらを確認したのだろうか?

もう一度わずかに開いたカーテンの奥を凝視した。

日頃、寝る為だけにしか入らない部屋だが、子供が喜ぶようにと温かみのある部屋にしてあるのだが、今カーテンの奥の暗闇にはどこか不気味な非日常的な世界を感じた。

カーテンを閉めていないという事は、実は内からも外からもその先の闇に、人は何故か不安な想像をしてしまうものなのかもしれない。

もしかしたら、まだ存在を許された月がつま先立ちで僕を覗いていただけなのだろうか。

イヴォークに乗り込み素早くエンジンを掛けた。大体2週間ぶりだというのに「待ってたよ」っと言わんばかりに快調なエンジン音だ。可愛い子だ。

庭でモタモタしたくはなかったので直ぐに出発した。

高速の入り口までの5分程度は暖機代わりに2000回転以内で準備運動をしてもらう。人だって久しぶりの寝起きで、猛ダッシュしろといわれたら心臓への負担でそりゃたまらないだろう。車だって同じだ。

まだ、この時間は一般の車も少なく、トラックとわずかなタクシーが走っているだけだ。

昨夜の雨でまだうっすらと濡れている道は、まだしばらくは明けそうにない闇を更に濃く黒く白く光沢が広がる世界を作りだしていた。

水温計が90°程で安定し始めた頃にETCゲートを抜け、あとは朝食までの2時間ほどクルージングを楽しんでもらおう。

イヴォーク,有機elネオンワイヤー3

渋滞の中で動かしてあげるよりも、気ままなペースで走らせてやるには、やはり夜明け前の首都高が一番喜ぶ。

しばらく運転してあげなかった日が続いていたせいだろうか。軽くアクセルを踏み込んだだけで、それ以上のパフォーマンスを見せようと、いつも以上のスピードと伸びを感じる。

可愛い子だ。尻尾がついていたらブルブル回している事だろう。しばらくは思い通りに走らせてあげよう。

僕は僕で、最近1人の時は毎回聴いているアルバムを挿入する。

アナログ人間はどうしたってまだまだ「CD」を好む。

少しボリュームを上げ、キャラメルブラウニーを一口すすった。

BiSH / プロミスザスター

 

 

「楽器を持たないパンクバンド」

 

なるほど・・、これで楽器を演奏していれば80年代くらいにありそうなテイストのバンドだったのだろう。懐かしさすら感じる。

少女達のダンスは「ありがち」とも言えるが、無意味に大量生産される○○坂グループや、○○KB48などという商品とは明らかに一線を画している。

ボリュームを上げると、それに合わせるかの様にスピードも加速した。

さすがはMERIDIAN。これ程の音量でも音割れが一切しない。

イヴォーク,メリディアン

車内というこの限られた狭い空間の音響は、書斎で聞く音楽とはまた違った味を出してくれる。

久しぶりに走れるのが余程嬉しいのか、手綱を引かなければどこまでも行ってしまいそうだ。

高速道路3

C1(中央環状線)を一周して気づけば向島ランプを通過していた。三郷方面から外環に入るつもりだろうか?

そう言えば・・

そう言えば大泉から先の外環は一体いつ開通するのだろうか? 大泉学園・・

僕の心の奥をくすぐる微妙な変化を感じたのか、三郷まで走らず小管JCTで池袋方面にステアが切られた。このままC2を2周くらい周遊するのも悪くない。

まだ夜が明けない首都高は、信じられないスピードで次々とランプを通過していく。わずか15分弱で山手トンネルに入ってしまった。少し手綱を引きながら全長18kmという日本最長のトンネルを通過する。

高速道路

大井JCTからB(湾岸線)に移る頃、夜が明け始めた湾岸線はわずかに交通量が増えてきたようだ。

月がすっかりと姿を消し、雲が空一面を覆っているように見える。

BiSH / オーケストラ

 

      あの時 君がついた嘘
問いただせずに 泣いたあの坂道
この先 君と会えないの?
離れ離れに 身を任せてた
いつもの後悔が風に消えていく
誰にも見せないその姿を
もうちょっとだけ 見ていたかったんだ
時がそっと睨んでる   

 

    「オーケストラ」を聴いていると、特にアイナ(アイナ・ジ・エンド)のハスキーボイスの魅力が際立つ。

彼女は既にCMなどの楽曲も手掛けてるが、他にダンスの振り付け、作詞作曲と、もうアイドル枠ではなくアーティストと呼ぶべきだろう。

ビジュアルテイストは中森明菜的で、YUkIのデビュー当時の荒削りの声質で、椎名林檎の才能を持ち合わせたような(違うか?)まだまだ大化けしそうな存在だ。

羽田を過ぎてもそのまま湾岸線をひた走る。
この時間であれば、アクアラインを往復しても良かったが、どこか違う場所を目指しているようだ。

きっとアイナの圧倒的な才能と個性を、この先もBiSHという枠に収めておくのは難しいのかもしれない。

タイミング的にもそろそろみんな、それぞれの目指す方向性が変化してくる頃だろう。

ーライブに行くなら早めかな・・ー

そういえば先週木曜日のQUEENの名古屋ドームのライブは最高だった。今度、日記に感想を書こう。

高速道路

このままでは八景島も越えてしまいそうな勢いのイヴォークの手綱を引き、一旦大黒PAで休ませる事にした。

BiSH / 星が瞬く夜に

 

最初に2つのせたメロディアスなロックバラードより、ライトパンク的なこの曲のほうが、BiSHの真骨頂といったところか。

ベースもギターも色気がある。

土曜日の夜には様々なオフ会などの集まりで混み合い、艶がある大黒PAも平日朝の何と色気のない事だろうか。

色気がない・・・

ふと、自宅側のアパートに住んでいる、いつも朝帰りをして帰ってくる水商売の女の顔が浮かんできた。

まだ若いはずのその顔はいつも厚化粧で、今時にしては珍しい「いかにも」という派手な服装をしていて心も体も擦り切れているという印象は、多分間違いではないだろう。

あの女も仕事の時は、「艶」をまとっているのだろうか?
なぜあの女は水商売で働くようになったのだろうか?

売店の目の前のスペースに車をゆっくり停車し、あの女はどんな声をしているんだろうかと考えていた。

あの不健康そうな女もまたハスキーボイスが良く似合うのかもしれない。

ハスキーボイス・・・

またアイナに戻ってきてしまった。

いつだったか「なぜハスキーボイスは人の心を震わせるんだろうか?」と考えていた事があった。

歌い方にもよるがハスキーな歌声は、どこか赤ちゃんの泣き声に近い気がしていた。何かを訴えかけるんだけど、声を持ってないから泣き声で救いを求めてるような声。

その泣き声を聞いていると、周りの子供達も何故かつられて泣いてしまう事がある。

悲しい泣き声を聞いていると人が持つ根源的な「共感性」を揺さぶられるのかもしれない。誰しもが幼い頃に持っていた、悲しみを共有するという感情が呼び起こされるのだろうか・・

そう言えば、以前この日記で書いた「琴音さん」のハスキーボイスも魅力的だった事を思い出した。

 

ふと気付けばすっかり夜も明けている。1時間半ほどのクルージングだったが満足してもらえただろうか?

たまには全力で向き合ってあげなきゃいけないのは何も車だけの話ではない。大切なものとは必ず定期的にでも向き合わなければ、昨日まであったものが明日も変わらずいてくれるとは限らない。

空になった紅茶のカップをホルダーに戻し、朝食は何を作ろうかと考えていた。

大黒埠頭まで来たから、本町のウチキパンまで足を伸ばそうか・・

あそこのイチヂククリームは妻と子供の大好物だ。それに少し砂糖を落としたスクランブルエッグにケチャップをかけて、昨日のサラダの残りに、四国のお土産でもらったポンジュースでいいだろうか。

そう言えば少し暖房を効かせ過ぎたせいか喉が渇く。
コーラでも買って帰るか・・

※猿芝居注意報

運転席のドアを閉め、自動販売機へ歩きながらふとパーキングの時計が目に入った。

7:30分か・・

そう言えばウチキパンは8:00時の開店だっけ・・・

9:00時だよ・・

えっ!!

 

 

誰?
9:00時に開店だよ・・

 

誰?!

 

イヴォーク,ドライブ,大黒ふ頭

あれっ! アナタ!!
何で! いつから・・

 

ゴマ
ずっと一緒だよ!!

 

あらっ

 

あっ、じゃあ車に乗り込む時の視線はゴマだったのかな?

 

ゴマ
そうだよ

 

あらっ(オチ?)

 

その後、ウチキパンは諦めて家路を急ぎます。家に卵が大量にあった事を思い出し(土曜日にLサイズの卵が1パック100円だったので2パック買っていたのね)、オムライスとサラダ、コンソメスープを作って食べましたとさ(実話)

めでたし、めでたし・・・

 

 

イヴォーク(EVOQUE)のお供に「BiSH」を連れて・・・

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