9月の終わりだというのに、ひどく蒸し暑い昼下がり。まだわずかに残る蝉の音が、いまだ残暑だという事を教えている。
その日、池尻大橋の喫茶店で打ち合わせを済ませた僕は、足早にコインパーキングに止めておいた車に乗り込み、安堵のため息・・
いや、深呼吸をした。
深く・・ ゆっくりと・・・
シートに深く腰を下ろし、ゆっくりとドアを閉めた。
太ももの辺りと二の腕が、うっすら汗ばんでいるのに気づき、ジャケットを脱ぎ、後部座席のハンガーにそれを掛け、エンジンを始動した。
「ブルゥゥゥン」
イヴォークのエンジン始動音が、いつの頃からか好きになった。
マセラティの様な吠えるような特徴的なうなり声を持っている訳ではないが、暖気中は低く乾いたうなり声が車内まで響いてくる。
暖気が終わると驚くほど静かなエンジン音に変わるのが特徴的だ。
他の誰でもない、君がそうだから好きなのかもしれない。
車内に置きっ放しにしていたサンペレのボトルを開け、今しがた喫茶店で交わされた会話の内容を何度も反芻し、頭の中を整理していた。
ー何も問題はなかったはずだー
久しぶりの緊張感のせいか、口全体がカラカラに乾いてくっついてしまってるようだ。ゆっくりと唇を開けると、「ペリペリ」っと皮がむけそうな感覚になったのでゆっくりとボトルを唇に押し当て、舌先を内側から上下に使い、上唇と下唇の隙間にわずかな穴を広げていく。
炭酸のぬけかけた生ぬるいミネラルウォーターが、その押し広げた隙間から徐々に口内を湿らせ、わずかに口の中を潤していく。
ーゴクリッー
相手も緊張していたのだろう。場を和ませようと自ら注文したケーキセットも、結局ひとくちも口にする事なく僕を見送る形になった。
彼は本当に、今日これから香港に向かうのだろうか?
今だにデモの影響で、湾仔周辺は交通規制で自由に行き来ができないと聞いている・・
九龍サイドに居を構える彼のオフィスには、近いうちに顔を出さなければならないだろう。
シフトをドライブに入れ発進しようと精算機に目を移すと「コカコーラ」の文字が描かれた自動販売機が隣にあるのを見つけ、ギアをパーキングに戻した。
ぬるくなったサンペレグリノを手に取り車のドアを開けると、9月の終わりとは思えない程の暑さが、エアコンの効き始めた車内にねっとりと流れ込んできた。
僕は、ゆっくりとコーラの自販機まで歩いていった。
ボトルをゴミ箱に捨てる代わりにコーラの350ml缶を買い、その場で一気に飲み干した。
コーラを一気飲みすると、こうまで気分がリフレッシュして、気持ちの切り替えができるというのは、いつか見た資本家側の宣伝文句に上手くのせられているんだろうか?
それならそうでも構わない。
2週間先までの予定を頭に巡らせ、より効率的な動きを再計算しながな再び車に乗り込み、ステアリングに手をかけた。
来週の富士山キャンプで必要な炭・ガスバーナーの替え・・
網の替えも買っておくか。
車検が近づいてきたから、必要なもの・・
発煙筒の有効期限は?
切れてるか・・
帰りにドンキにでも寄ってくか。
予約済みの「ステーキ肉」は最後にピックアップすればいいだろう。
自分の誕生日に、自分で「肉」を予約させたのは、少し嫌な気分にさせただろうか?
今日は妻の誕生日だ。
普段なら、肉料理担当の僕が調理から食材の調達までをしてるのだが、イレギュラーな打ち合わせが入ってしまい、どうにも予定が狂ってしまった。
お得意の肉屋は自宅から歩いてでも行ける距離にある。その前に花屋にでも寄っていこう。
駐車場の精算機にカードを入れると、800円の文字が表示された。
小さな事で怒る方ではないが、カード決済すらできない時代遅れの精算機に思わず悪態をつきたくなった。
隣のコーラ自販機が電子決済できるのに、なぜ君はできないんだ?
しかも、万券も使えないときてる。
免許証入れとして使っている黒色のエピから非常用の1000円札を取り出し精算、200円を受け取りイヴォークを発進させた。
この近くのドンキだと目黒の青葉台店になるが、あの店は駐車場が嫌いだから行きたくない。
何が嫌いなんだと言われれば、困ってしまうが、強いて言うならあの立体駐車場の「空気感」が好きじゃないのだ。
合理的と言われる人間にも、非合理的な部分は必ず存在する。
ーじゃあどうする?ー
またもや瞬間的に状況を整理してみた。
買い物リスト週末の予定天気ハンズ?時間的余裕今日の予定帰りのルートスーパービバ?週末の道路混雑状況妻の週末予定子供の週末予定閉店時間
やはり青葉台店に今行くしかない。
もう一本先の道に出れば、信号のある山手通りに出られる。
目先の感情でしか物事を選択できない人間とは違い、僕は先の未来の「結果」から現在の行動を選び取るというひどくつまらない生き方をしている。
信号を右にステアを切り、山手通りを品川方面に向かうと数分でドンキに到着した。
象徴的なもの
生暖かい駐車場からエレベーターで1Fに上がると大水槽に何故かウツボがいるのがこの店の特徴だ。
普段ならウツボごとき視界にも入れないのに、この時は何故かしばらくの間、悠然と泳ぐウツボの姿に目を奪われていた。
そういえば・・
もう3年・・・? 5年?
いや、もっと前だろうか?
同じ水槽に「ふぐドン?」とかいう名前をつけられた魚がいた気がする・・
確か・・ ウツボと同じような気持ちの悪いドット柄のナポレオンフィッシュの様な、どでかい魚だった。
いつからいなかったのだろう?
もう死んでしまったのだろうか?
なぜこんな事を急に思い出したのだろう・・
この記憶の回想にも何か意味があるのだろうか?
何かの暗示。
そう言えば・・・
彼の左目の脇にホクロなんていつからあったのだろう?ずっとサングラスをしていた僕は、打ち合わせの間、なぜかそのホクロが気になり何度も確認するかの様にそのホクロを見ていた。
そして彼は、サングラスの奥の僕の目がそのホクロを見ていると気付いていた。
何度も自分のそのホクロを左手の中指と人差し指で隠すかのように、何か考え事をする時のジェスチャーのようにカモフラージュしている様だった。
!?
ー甘い物が苦手なんだよー
確か・・ 、5年ほど前に、韓国の鎮海(チネ)だったと思う。
その時もある仕事の話を済ませた後、ホテルから見渡せる夜桜を前に、「シッケ(日本の甘酒の様な飲み物)でもどうだ?」と誘った僕に、彼は確かにこう言った。
「甘い物が苦手なんだよ、砂糖というものが体質に合わないんだろうな」
一口も口にしなかったケーキセットは、何を意味しているんだろうか。
ふぐドンはもう死んでしまったのだろうか?もし死んでいるとしたら、天国に行ったのだろか?
それとも・・・。
もう彼とはこの先の人生において、二度と会えないような気がした
Don’t worry about it
バーベキュー用の網に炭に着火剤、車検用の発煙筒と、次々とカゴに入れていく。
なぜかこの店には定番の発煙筒が売ってなかったので国交省お墨付きの「非常用信号灯」というのを今回は選んでみた。
おーーい!
あとは大好きなテーブルコショーを大量にカゴに入れ・・
おーーい!
そうそう、帰りの車で飲む冷えたコーラも買わなければ!
おーーーい!
知らない人も多いと思うが、テーブルコショーはドンキホーテが一番安い。少し前までは、他の追随を一切許さない一個100円という驚異的な値段で売られていたが、最近では随分と値上がりをしてしまい残念至極の極み・・・
おーーーーい!
んっ?
聞き覚えのある声がした
おーーーい!
あれっ!
まさか!!
「あれっ! アナタ!」
買うの? 買わないの?
その後、2人で買い物を済ませ自宅に戻り、夕食の準備に取り掛かった。
ステーキの美味しい焼き方
肉料理は実に奥深い。
ステーキを美味しく焼くコツなんてものは、クックパッドなどを見ればいくらでも溢れているが、実際には肉の部位、厚さ、筋の入り具合と方向、差し具合など個体差があるので本当にそのステーキ肉にあったベストな焼き上がりにするというのは以外に難しい。
代表的な焼き方といえば、あらかじめ常温にしておいた肉に塩コショウで下味をつけ、片面ずつ強火で焦がす手前まで焼き、フタをして中火で2〜3分放置すれば、ミディアムステーキの完成となる。
定期的に話題になる、「安い肉でも美味しく焼き上げる方法」として超極弱火で焼き上げる低温調理法。最近では二度焼きやら、漬け焼きやらをプロの料理人が見せてくれるが、実践するとこれがなかなかそううまくはいかない。
我が家ではステーキを頂く際は、そんなに高級な肉ではないが、そんなに安い肉も使わない。100g3000円程のサーロインで僕は毎回500gを食べている。
500gというと、鉄板で焼くにはあまりにも大きすぎて中心まで火が通らず、レアレアになってしまうので、鉄板で肉の両面にかるく焦げ目を入れたあと、200度に熱したオーブンに10分程度いれておくとものすごくジューシーな焼き上がりになる。
これが我が家での定番の焼き方である。
厚切りの肉でもやわらかく仕上げるコツは、やはり「すりおろし玉ねぎ」に漬けるのが一番だと思う。
肉の両面に「すりおろし玉ねぎ」をたっぷり塗りつけて(白ワインも少々)ジップロックにそのまま入れ、冷蔵庫で保管。
1〜2時間漬けると、玉ねぎに含まれるプロアテーゼというタンパク質分解酵素の作用で、厚切りの肉でも信じられないくらいやわらかく焼きあがる。
急激な温度差は旨味成分のグルタミンやイノシン酸が流れてしまう為、肉を焼く1時間前には、冷蔵から常温に戻しておいた方がいいだろう。
すりおろした玉ねぎは、肉をオーブンで焼いている間にステーキソース、もしくはサラダソースとして使えば一石二鳥という訳だ。
妻の笑顔が、今夜の夕食の評価を教えてくれていた。
The secret time
ペヤングやきそばを食べる時は決まって深夜がお決まりだ。
朝、昼、夜の食事として「ペヤング」を食べるという事はまずない。
量が少ないという事もあるが、いつの頃からか僕にとってペヤングとは「深夜のおやつ」という位置付けに収まっている。
夕食の後、洗い物を済ませ子供達と散歩に出ていたせいか案の定、夜中には小腹が空いてしまった・・
キッチンへ向かう、僕・・
今宵もこうして2人の子芝居がまた始まります。
まさか、自分の父親が真夜中のキッチンでこんな事をしてるとは知らず、奥さん子供達は夢の中です・・
激辛GIGA MAX食べ始めます!
写真では伝わりづらいかとは思いますが、一つの麺の大きさ自体がかなりデカいです。
レギュラーサイズ4つ分の麺量みたいです。酔って帰った日には、ペヤング4つぐらいペロリと食べてしまう僕としては、大して大盛りとは思えませんね。
成人男性の1日の健康的な摂取カロリーが2000kcalみたいなので、このペヤングが2136kcalという事は、1食で既にオーバーしてるという事です。
僕のこの日の1日のメニューは、朝はバイキングに、夕方にがっつりおやつ、夕食にがっつりステーキに、深夜にペヤングと・・
推定で10000kcalは超えてそうですが、そんな事には全く動じません(`・ω・´)
なんと、お湯の量が1.3ℓというのはカップ麺史上初ではないでしょうか。
我が家の電気ケルトは1ℓまでしか沸かせないので、小鍋出動します。
4つ分の大きさなのに、3分の待ち時間というのが少しお得な感じです。
ペヤング激辛シリーズは、いっつも舐めてかかって痛い目を見てるので、今回はソースをMAXで使わず2割残しにしてみました。
こちらも写真では伝わりづらいですが、4個分なのでなかなかボリュームがあります。
この「混ぜ混ぜタイム」に沸き立つ香りが、食欲と唾液をMAXにさせます。
「ズルズル、ズルズル🥢」
最初の一口目がヤバイ!!
しかしその後は、ずっと終わりまで口の中が炎に包まれているので、2割うまい、8割痛いが最後まで続きます。
途中で止まっても痛いだけだから、この痛さから逃れるには最後まで完走するしかない。
ペヤングの激辛系は、「MAX」だろうが、「もっともっと」だろうが「END」だろうがとにかく辛い。
何度も言うが、この辛さから逃れるにはとにかく一刻も早く走り切るしかない!
「あぁ、やっぱやめればよかった」
「本当に辛かった」
いつもいつも、この繰り返しだよ・・
見苦しいですが、ティッシュの量が戦いの凄まじさを教えてくれています(´・ω・`)
まとめ
もし・・・、
もし本当に最後まで読んでくれた人がいたならこれだけは伝えたいです。
とさ、めでたしめでたし・・
終わり